アセンション島で体験する遠隔地ダイビングの魅力
はじめに
アセンション島は、南米とアフリカのほぼ中間に位置する火山性の孤島です。赤道のすぐ南にあり、常住人口は存在せず、通信中継基地と南大西洋への中継地点として利用されています。荒々しい溶岩流とシンダーコーンが広がる景観の中に、緑豊かな植生が点在し、周囲の海は温かく透明です。しかし、強風と激しい潮流が海岸を襲うため、ダイビングは決して楽なものではありません。その遠隔性こそが、豊かな海洋生物が残る理由です。
アクセスと拠点
島は幅数マイル、最寄り大陸からは千マイル以上離れています。イギリスからのフライトは約9時間。到着後は北端のイングリッシュベイにある質素な基地から、島周辺のダイビングスポットへと出発します。陸上と小型ボートを組み合わせた潜水は、観光ダイビングとは異なり、装備の搬入やエアシリンダーの充填を自ら行う肉体的な作業が伴います。
潜水の準備
まずはガナオベイの自然岩礁にあるジェットで装備を積み込み、極小のインフレータブルボートに乗り込みます。6名が乗る狭いボートでは、装備の配置順序が重要です。風と潮の影響でボートを岸に固定できない場合、船乗りが泳いでエンジンを始動し、ロープマットで保護された船体をジェットに導きます。波が高くなると、装備や潜水士が海に投げ出される危険もあるため、常に安全意識を保つ必要があります。
本格的な潜水体験
エンジンを低出力に設定し、南大西洋の波に挑むと、船体は激しく揺れます。カメラを手放さずに潜ることがほとんどで、足はネオプレンウェットスーツのクッションにもかかわらず、青い打撲痕で痛めます。最もおすすめのスポットは、島の南東端に位置する「ボートスウェイン・バード島」と「ボートスウェイン・バードロック」です。海況が穏やかなときのみ出航し、数マイルの航海に1時間ほどかかります。
主要ダイビングスポット
ボートスウェイン・バード島は、数千羽の海鳥が垂直の岩壁に集まる自然の避難所です。鳥の鳴き声とともに、ガナの臭いが漂いますが、潜水開始と同時にそれは水中の静寂へと変わります。
ボートスウェイン・バードロックは水面上では小さな海山ですが、海中では垂直の壁が広がり、無数の魚群が集まります。30メートル付近でジュニアホースアイジャックや黒いトリガーフィッシュ(ブラック・ダーギオン)を観察でき、時には緑ウミガメやハウスバイル・ウミガメ、イルカ、マンタ、ガラパゴスシャークなども出現します。
海中の風景と生物
古代火山岩に赤いスポンジが付着し、30メートル付近の粗い軽石砂地帯へと続きます。色鮮やかなソフトコーラルは少ないものの、黄色いイソギンチャクや鮮やかなトリガーフィッシュの群れが印象的です。魚の総量は他の熱帯ダイビングスポットと比べても圧倒的で、特に黒いトリガーフィッシュは群れで泳ぐと水が黒く染まります。
まとめ
アセンション島はアクセスの難しさと高コストゆえに、レッドシーやカリブ海ほどは人気がありません。しかし、手付かずの海洋生物の豊富さと、遠隔地ならではの原始的な自然環境は、世界屈指のダイビングスポットとして評価できます。人間の手が届きにくい場所こそが、自然本来の姿を保ち続けているのです。






