モロッコ:マラケシュとトゥブカル山の冬季冒険
マラケシュ到着と街の喧騒
暗闇の中での到着は好きではない。まずは自分の位置を確認したい。だが、マラケシュの午後8時は暗闇以上に感覚が錯乱する。タクシーを降りた瞬間、狭い路地を次々と曲がり、手に持ったキャリーバッグを抱えて必死に走る。混雑したショッピングセンターでは忍者のように軽快に動くが、北アフリカのバザールに包まれると、酔っ払った豚のように不器用になる。アルコールも豚肉もないこの国で、目立ってしまうのは皮肉だ。
エクスペディ・アドベンチャーのチームと共に、モロッコ風の宮殿(いわゆる『ホステル』)に滞在。カメラを手にしないと作品ができないと感じるほど、撮影意欲は高まる。1時間でエキゾチックな動物のぬいぐるみや人間の歯、オレンジの山、衣類用ブラシを購入し、スパイス店のイブラヒムとリバプールFCを応援した。すべてが笑顔に満ち、熱狂的な地元の人々が旅を彩る。
冬のイムリルとトゥブカル山への挑戦
冬になると、アトラス山脈の麓にある静かな村イムリルは、バイクも観光客も蛇使いもいない、まさに別世界になる。そこから2500メートルの登山が始まる。北アフリカ最高峰・ジュベル・トゥブカルへ向かうため、雪に覆われた谷を歩く。降雪は深く、赤い土がところどころに見える光景は、乾燥した砂漠と対照的だ。


イムリルを抜けると、広大な平原が広がり、遠くにトゥブカルのシルエットが見える。疲れた足はクランプとブーツを外し、カメラ機材の重さが軽くなる瞬間に安堵感が走るが、まだ雪は深く、足元は凍結したままだ。
宿のアルババ・アリ・ババは笑顔で迎えてくれ、甘いミントティー(現地では「ベルベルウイスキー」)で温まる。言葉の壁も、笑い合うことで自然と埋められた。
サミットへの試みと再挑戦
朝早く、日の出前に登頂を目指す。南側のコルは急で連続した上りだが、雪は固まっている。空が薄暗くなると雲が急速に接近し、凍った雪が顔に打ち付けられる。数回のスクランブルの後、強風と低体温によりガイドのサムとジェイミーは安全第一で下山を決断。数百メートルの高さ差であっても、チームは不満なく撤退し、翌日の再挑戦に備える。


夜は激しい吹雪の中で5時間睡眠。翌朝5時のアラームは困難を極めたが、薄明かりの中で数本の光が雪原を照らす。雪は止み、先行隊が道を切り開いたのを確認すると、チームは軽装で速攻を決行。軽量機材とアドレナリンで、前回撤退した地点まで短時間で再び進むことができ、晴天の中でサミットが見えた。
山頂で感じた「空間」
サミットに到達した瞬間、そこにあったのは達成感ではなく、圧倒的な開放感と孤独感だった。足元に広がる世界がすべて遠ざかり、ただ自分だけが広がる空間にいる感覚。マラケシュの喧騒と対照的に、山頂は瞬時に全てを切り離す。
下山と最後の思い出
下山は急斜面の2500メートルを13km、約2時間半走るように疾走した。夜が更けるまでにホステル「ダラドラル」に到着し、最後のエネルギーを使い切った後にタジンを味わう。暗闇の中での到着が、今日の旅の締めくくりとなった。




