タスマニア・サウスコースト・トラック85kmの孤独な冒険
はじめに
荒れ果てた遠隔の海岸に漂着した漁師。ぼさぼさのひげ、ぼろぼろの服、そしてぼんやりした眼差しは、過酷な試練を物語っている。東へ向かうしかない――文明への唯一の道は、ヘビが潜む雨林、山脈、沼地、激流といった自然の壁だ。
ここは、これまでで最も遠く離れた場所。現実から切り離され、日常の感覚が薄れ、漂流者の夢に身を委ねている。だが、ただ流れ着いたわけではない。自ら選んだ挑戦であり、ここにいることを望んでいる。タスマニアの世界的名山・サウスコースト・トラック(全長85km)を歩き、手つかずの孤独を追い求めているのだ。
危機一髪の遭遇
曲がり角で足を止めた瞬間、黒いタイガースネークが3フィート先で身を潜めていた。アドレナリンが全身に駆け巡り、サバイバルモードがフル稼働する。タイガースネークは中枢神経系に作用し、筋肉障害や血液凝固を引き起こす致死性の毒を持つ。解毒剤までは4日先だが、蛇は刺激されなければ攻撃しない。しばらく待ち続けた後、蛇はゆっくりと姿を消した。
漂流物が道標に
漂着したブイやプラスチック容器、木に結びつけられたゴム手袋が、私の道しるべになる。手つかずのビーチを歩き、轟く波の音に心を奪われる。ブーツが湿った砂に沈み、足跡がゆっくりと残る。タンニン色の小川を渡り、オウムの鳴き声を聞き、跳ね回るワラビーや土を掘るウォンバットを見つけながら、湿った湿原を進む。
タスマニア・南西国立公園の奥深くへ
ソロでサポートなしのこの旅は、タスマニア最大の国立公園であるサウスウェスト・ナショナルパーク、そしてタスマニア荒野世界遺産地区の中心部を横断する。クォーツ岩の山々、ブトングラスの平原、ユーカリの森が広がり、過酷なサウスコースト・トラックが走る。


トレイルへのアクセスと自給自足
ほとんどのハイカーと同様、まずはメラレウカの孤立した飛行場へ飛び、そこからトレイルへ向かう。全行程は東へ85km、次のトラックや道路に出会うのはコックル・クリークの砂利道だけだ。その間に施設、山小屋、緊急電話、補給地点は一切ない。背負うのは自分の体力と装備、川の水で飲み、キャンプストーブで食事を作り、テントで眠るだけ。
孤独の浄化
二日目、誰の姿も見えない。携帯もWi‑Fiも届かない。通勤やオフィス、締め切り、子どもの叫びやテレビの広告もない。足を前に出すだけのシンプルさが、心を洗い流し、活力を与えてくれる。
翌朝、テントの横でポリッジが沸騰。黒く自信満々なカラウィングが朝食を狙う。今日はアイアンバウンド山脈の905mの急登が待ち受ける。天気は雲一つない快晴で、ルイーザ湾が黄金色に輝き、北側にウエスタン・アーサー山脈とフェデレーション・ピークがそびえる。
唯一無二の体験
八週間のバックパッキング経験があるが、ここだけは本当に特別だと実感する。多くの旅行者が同じガイドブックに沿って同じ道を歩く中、ここは誰にも邪魔されない純粋な空間。感覚が研ぎ澄まされ、音、匂い、景色すべてが鮮明になる。アイアンバウンド山脈の岩場に座り、プライオンビーチの細い白砂を眺めると、風が髪を揺らし、太陽が首筋を暖める。これこそが求めていたエスケープだ。


暗闇と不安
濃い森に入ると、リラックスが不安へと変わる。足元の根が滑りやすく、泥や倒木に躍り込むたびに恐怖が募る。薄暗くなると、木の幹が幻のタイガースネークに見え、枝が毒蛇に変わる錯覚に陥る。
自分の体力に疑問が湧く。「本当にやり遂げられるか?」と。デッドマンズ・ベイと呼ばれる地点は、1885年に死んだ捕鯨船乗りが岸辺で発見されたという伝説がある。ガイドブックの『単独での歩行は推奨しない』という警告が頭をよぎるが、やる気を取り戻し、前へ進む。
六日目、孤独を愛す
六日目になってもまだ歩いている。生き延びるだけでなく、むしろこの孤独が好きだ。海から回収したロープで作ったハンモックに横たわり、ズボンに這うヒルを見つめる。タスマニア・デビルを探すが、姿は見えない。彼らは顔腫瘍病で数が激減している。
グラナイト・ビーチへ降り立ち、崖から落ちる滝の水が砂に直接注ぐ瞬間、全身がリフレッシュされる。これから残り20.5kmを走破し、コックル・クリークへ向かう。途中、サウス・ケープ・レンジの膝ほどの沼地を越える必要がある。
出会いと未来への思い
昼食後、地元ハイカーのピーター、ブルース、ミック(ホバート出身)と合流。自然保護の重要性について語り合う。人里離れたこの場所を体験できたことに感謝し、すべてがマッピングされ尽くした今でも、まだまだ未知の道があることを実感した。
この旅は、現代の情報過多の中で自分だけの道を切り開く貴重な経験となった。




