伝説のイタリアシェフ、ニューヨークで本格イタリア料理を体験
シンプルなミッションだった。米国に足を踏み入れたことのないイタリアのスーパースターシェフ、フルヴィオ・ピエランジェリーニを連れて、マンハッタン随一のイタリア料理店を次々に巡り、アメリカ版イタリア料理への評価を聞き出すというものだ。
ピエランジェリーニはロッコ・フォルテ・ホテルズのエグゼクティブシェフで、ローマのホテル・デ・ルッシ、フィレンツェのホテル・サヴォイ、ロンドンのブラウンズ、シチリアのヴェルデュラ、ベルリンのホテル・デ・ロームなどを手掛けている。イタリア国内では、トスカーナ海岸にかつて存在した自らが全料理を手掛けた『ガンベロ・ロッソ』の創設者としても知られ、2009年に閉店したときは「イタリア最高のレストラン」と評された。
そんな挑戦的な企画に、イタリア料理界の仲間たちも快く協力してくれた。各店は「自分の代表作、イタリア人の同僚に見せたくなる一皿」を用意し、ニューヨークでのイタリア料理の姿を見てもらうという設定だ。
11:00 Eataly(エータリー)
まずはEatalyでピエランジェリーニと合流。息子と3人のスーシェフと共に、当夜のディナー用食材を買い込んでいた。Eatalyのゼネラルマネージャー、ニコラ・ファリネッティが「ピザ・ベラーチェ(本場のピザ)」を薦め、マルゲリータがテーブルに運ばれる。
「ピザは手で食べるべきだ」と語り、クラシックなバジル・モッツァレラ・トマトの組み合わせを絶賛。「歴史を尊重し、妥協がまったくない」点が気に入ったという。
続いて、ナポリ式、ローマ式、モダン式というイタリアのピザ3種について短い講義を受ける。ピエランジェリーニは「ピザ生地は手で伸ばすべき」とし、機械製は好まない姿勢を示した。
11:50 Locanda Verde(ロカンダ・ヴェルデ)
シェフ:アンドリュー・カルメリーニ
提供料理:ラムミートボールスライダー、オレキエッテと自家製ダックソーセージ、シャロットとプロヴォローネのポルチェッタサンド
タクシーの中でピエランジェリーニは、32年間飛行機恐怖症だったことを明かす。「車と列車で世界中を回ってきたが、チャンスを失ってきた」――90年代の東京・シンガポール・香港への出張も諦めていたという。最終的に「ある日、ただ飛んでみた」ことが転機だった。
店内に入るとすぐに「エ・ベリッシモ(美しい)」と感嘆。オレキエッテは「ノルチャ風のソーセージがベースだが、ひよこ豆と野菜で新しいひねりが加わっている」と評価し、スライダーは「可愛らしく、歴史と独創性が融合している」とコメント。ポルチェッタは「皮が楽しく、きちんと焼かれたタマネギが最高」だと語った。
12:20 Del Posto(デル・ポスト)
シェフ:マーク・ラドナー
提供料理:100層ラザニア・アッラ・ピアストラ
ラドナーシェフは「リディア・バスティアニックを知っているか?」と話し、400席の広大な店内に感嘆。銀のプレートに乗せられた100層ラザニアは、ラグー、ベシャメル、パスタが交互に重なり、カメラのフラッシュが止まらないほどの圧巻だった。
ピエランジェリーニは「ここはオリーブオイルまで一本一本選んでいる」点に驚き、厨房見学を要請。ラドナーは「アメリカ人はイタリア料理に対して固定観念がある」ことを指摘し、イタリア人シェフがニューヨークで本格的に料理する難しさを語った。
厨房ツアーでは、女性スタッフが手作りパスタを作る様子や、超低温フリーザーに保管されたツナを見る機会があり、ピエランジェリーニは「ツナは東京、ニューヨーク、イタリアの順で出荷される」ことを教えてくれた。
13:20 Maialino(マイアリーノ)
シェフ:ニコラス・アンダラー
提供料理:トンナレッリ・ア・カチョエペペ、マルファッティ・アル・マイアリーノ(仔豚ラグー、レモン、ルッコラ)
グラマシーパークを眺めながらバー席に座り、店内の空間デザインを絶賛。「ここに一日いても飽きない」ほどの雰囲気だった。
アンダラーシェフはローマ出身で、芸術史を学んだと語る。ピエランジェリーニは「シェフに急いでいると伝えてはならない」ことを指摘し、食事はゆっくり味わうべきだと教えられた。
カチョエペペは「本格的」と評価され、マルファッティは「レモンのアクセントが効いていて、技術と情熱が伝わる」味わいだった。
14:00 Ai Fiori(アイ・フィオリ)
シェフ:マイケル・ホワイト(オーナー)/エグゼクティブシェフ:クリス・ジャエックル
提供料理:トロフィエ・ネロ(リグーリア産甲殻類のラグー、イカ、ホタテ、スパイス入りパン粉)
タクシーの中でグランドセントラルやユニオンスクエア・グリーンマーケットを紹介しながら、ピエランジェリーニは「迷子になるのが好きだ」と笑う。
ジャエックルシェフは料理の背景を熱く語り、イタリア料理は「DNAに刻まれたもの」だと主張。レシピは学べても、母や叔母、祖母が受け継いできた“魂”は再現できないと述べた。
しかし同時に「今日食べたイタリア料理は、イタリア本土の多くの料理よりも優れている」ことを認め、アメリカのシェフたちにも大きな可能性があると結論付けた。
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