トレス・デル・パイネ W トレック(パタゴニア)
トレス・デル・パイネ国立公園のWコース概要
予算に余裕があれば、各区間に点在するホテルやロッジに宿泊でき、ベッド・シャワー・売店・バー・食堂などが利用可能です。ただし、予約は数か月前に確定させる必要があります。実際には、多くのハイカーがキャンプを選びます。公園内には公衆トイレや調理用シェルターが備わったキャンプ場が多数あり、野営は原則禁止です。トレス・デル・パイネはユネスコ世界生物圏保存地域に指定されており、環境への影響を最小限に抑えるため、管理当局は無人の小規模な『ウィルダネス・キャンプサイト』の利用を推奨しています。
Wコースは全長約60km、所要日数は4〜5日です。1日あたり5〜10時間の歩行を想定し、天候の変化に余裕を持ったスケジュールが必要です。道は中級者向けの起伏が中心ですが、突発的な強風や低温により危険度が上がることがあります。私は西から東へ向かい、最後の朝に有名な『トレス・デル・パイネ(青い塔)』を眺めました。
Day 1: ラゴ・ペオエからグレー氷河へ
まずはラゴ・ペオエを渡ります。透明感のあるターコイズブルーは、氷河が削り取ったシルトが水に混ざることで生じる“氷河ミルク”です。湖の向こうに見えるマシゾ・デル・パイネは、火山岩が冷えて花崗岩化し、長い年月をかけて堆積層が圧縮・隆起し、氷河が削り取って現在の壮大な塔状の姿になりました。
対岸に上陸したら、まずグレー氷河へ向かいます。最初は平坦ですが、次第に岩がちのリッジを上り、ラゴ・グレーの北岸にある氷河を眺める展望台(ミラドール・グレー)へ。ここからは南パタゴニア氷原の一部であるグレー氷河が見渡せます。パタゴニアの風は時に時速180kmを超えることがあり、2012年のWコースで5人が死亡したという事故例もあります。
夕方、レフュジオ・グレーのキャンプ場に到着しテントを設営。荷物を置いたまま20分ほど北へ走り、氷河の近くで最後のスプリント。静寂と圧倒的なスケールに心が洗われました。
Day 2: グレー氷河からラゴ・ペオエへ
翌朝は雨に見舞われました。パタゴニアでは濡れるのが前提です。防水装備だけでは防げませんので、ビニール袋で衣類や電子機器を包むことをおすすめします。雨が止むまでシェルターで待機した後、再び歩き出すと、約1時間後に太陽が顔を出し、湿った寒さが和らぎました。
帰路では滝が流れ落ちる崖や、清澄な支流で水を補給。パタゴニアの水は“浄化”されているわけではなく、自然そのものの純粋さがあります。
乾いた天候の中、枯死した木々が多数見られました。強風が火種になると、数分で広範囲が焼失する危険があります。過去の大火(1985、2005、2011年)を受け、キャンプファイヤーは全面禁止され、調理は風除けの小型バーナーのみ許可されています。
ラゴ・ペオエの岸辺で新年のカウントダウンを迎え、同じくシェルターで雨宿りしていた他のハイカーと交流しました。

Day 3: ラゴ・ペオエからバレー・フランセスへ
天候が回復し、太陽の光を浴びながらイタリアーノキャンプへ向かいます。道中、カラフェテベリーを見つけると、地元ガイドが「カラフェテを食べた人は必ずパタゴニアに戻ってくる」と語ります。川を渡る吊り橋は1度に2人しか通れないので、ゆっくりと渡ります。
キャンプ後、バレー・フランセスへの登りが始まります。北米太平洋岸林に似た植生が広がり、岩場や小川を渡る際はトレッキングポールが必須です。途中、氷河崩落の音が聞こえるほどの氷河活動を目撃し、迫力ある滝と雪景色に圧倒されました。
Day 4: イタリアーノキャンプからラス・トレスキャンプへ
本日は約27km、最も距離を稼ぐ日です。天候は快晴で暖かく、軽い風が心地よい。ラゴ・ノルデンスコールドを回り、アルミランテ・ニエト山の麓を通り、バレー・アセンシオを抜けてラス・トレスキャンプへ向かいます。道中は岩礁、乾燥地、レングァ樹林、金色の草原と多様な風景が続きます。キャンプでは他のハイカーとシェルターで集まり、持参したビールとワインで乾杯。翌朝、トレス・デル・パイネの最終クライミングに備えます。
Day 5: トレス・デル・パイネの頂上へ
早朝4時に出発し、暗闇の中で岩場を登ります。日の出直前に塔の上に到達すれば、太陽の光が塔の岩壁を金色に染める瞬間を目撃できます。光が塔の側面を流れる様は、溶岩のように鮮烈です。
この旅は「壮大さ」という言葉で総括できます。自然の圧倒的な美しさと、変わりやすい天候・自分自身の限界に挑む体験が融合した瞬間です。遠くの岩陰に座っていた若者が「一緒に見た光景は本当に美しかったね」と語りかけてくれました。短くても、世界の美しさを共有できることは特別な喜びです。




