パタゴニアでのカヤックとポーテージの冒険
旅の始まり
漁船の舷側に身を寄せ、雨が水面で踊る様子を眺めていた。隣にはスコットランドから飛んできた親友のシェマスがいた。私たちは、故郷よりも濡れ、風が強いこの地に何を求めているのか、無言のまま問いかけていた。
年平均雨量9メートル、361日が降雨という記録を誇るプエルト・エデンは、パタゴニアの氷に覆われた荒野の中心にある、失われた温帯雨林のようだった。道路のない町は岩の島に点在し、ボートと木板道でしかつながっていない。ここは先住民族カウェスカルの最後の拠点で、彼らは皮と木骨のカヌーに土のベッドを敷き、内部で火を焚いて寒さをしのいでいた。
私たちは、45日分の食料・燃料・バターとキャンプ用品を積んだ低容積カヤックで挑んだ。総重量は120kgを超え、荷重でたわむほどだった。次の840kmは、船に入れたものだけに頼る旅になる。道も、脱出路も、すべてが海と氷だけだった。
カヤックと名前の由来
パタゴニアで2シーズンのカヤックガイドを務めた経験から、ここは「美しい悪魔」のようだと覚えている。かつて「天からこの景観を削り取るには、地獄の天候が必要だった」と言われたことがある。そんな過酷さへの敬意を込めて、船に『Viento(風)』と『La Rafagas(突風)』という名前を付けた。
「ペンギンだ!」とシェマスが歓声を上げた。カラフルなインコが飛び交い、ハチドリが船首をくるくる回っていた。対照的な光景に、私たちは「ここは何だ?」と呟いた。
氷河との遭遇
北風を利用しながら北へ南へと進むルートを選び、町を抜けて荒野へと漕ぎ出した。左岸は濃い森、右岸は垂直の花崗岩。リズムができ、自信がつくにつれ、北に三回、内陸に三回の迂回で氷河とヘッドランズのポーテージを狙った。
波の先端を切り裂くと、虹色のスプレーが船体にかかり、1週間ぶりの太陽が顔を出した。氷河の砕けた氷が水面にクリーミーな青を漂わせ、巨大なストームペトレルが波間を優雅に舞った。その光景に、私たちは風を掴む鳥のように自分たちの闘いを再確認した。
巨大な氷壁が崩れ、泥のような茶色い水柱が轟音と共に空へ噴き上がった。氷河の足元にできたラグーンで、千年の旅路を終えた氷塊が崩れ落ちる様子は、息を呑むほどの美しさだった。
ポーテージと苦闘
最初のポーテージは40度の急斜面で、茂みはほとんど抜け出せなかった。泥と棘にまみれ、血がついた手で船首を握りながら、ゆっくりと前進した。汗と息切れの中で、苦労が冒険の醍醐味だと実感した。
山陰に降ろしたカヤックは、ヘッドランズを横切る細い湖へと続く水路へと繋がっていた。2日間の漕ぎと引きずりの後、急流を越えて海へと抜け出した。
その後、Peel Fjordという狭い入り江へ向かい、氷山と霧に包まれた光景を堪能した。朝日の光が霧のベールを金色に染め、静かな湖面に映し出された姿は、まさに「失われた楽園」だった。
帰路と余韻
南へ戻る途中、嵐が再び姿を現し、数日間の雪嵐と強風に見舞われた。最後のポーテージは200mの高さで、カヤックをロープで下ろしながらの「短い泥の引きずり」だったが、逆境がキャラを育てた。
やっと空が開け、無限に広がる青空と遠くの山々のシルエットが見えたとき、文明へ帰る時間が来たと実感した。人里離れた fjord での生活は、自然のリズムに身を委ねることで新たなペースを教えてくれた。
「ただ聞いてみてくれ」とシェマスが呟くと、遠くの屋根から人間のざわめきが微かに聞こえてきた。次の山岳冒険をすでに計画し始めていた。今回の探検は成功であり、まだまだ先へ進みたいという欲求を残したまま終わった。













