ウルティマ・ツーレ
序章:ウルティマ・ツーレへの憧れ
中世の伝承に登場する北の神話の島、ウルティマ・ツーレは、海でも陸でも空でもない、氷山に守られた未知の領域と語られています。私にとっての南半球のウルティマ・ツーレは、リオ・セラーノのラゴ・ゲイケでした。初めてガイドを務めた季節にこの湖を知ってから、幾度も川の濁流と岩氷の風景に挑み、未踏の地として心に刻んできました。
再挑戦:雨に濡れたパタゴニアの荒野へ
今年、仲間のマット・スミスと共にリオ・セラーノの上流へと漕ぎ出しました。出発直前にスプレーデックを忘れたことに気づき、二人で笑い合いながら「デッキなしカヌー遠征」と名付けた即興の冒険が始まります。
雨と風が激しく吹く中、私たちはスプリットボートで川の曲がりくねった流路を進み、滝の直下はスプレーデックがないため回避。代わりに風が強い箇所を抜け、森の中のシェルターでシナモンの香りが漂うマテを楽しみました。
初日のポートレージと風景
朝日が葉間から差し込み、濡れたドライスーツが乾く頃、14.2kmのポートレージを目指して出発。ジョニー・キャッシュの「Walk the Line」を口ずさみながら、ボウ/ステルン・ライン技法でカヌーを引きながら急流を越えました。
遠くにトーレス・デル・パイネ山脈がそびえ、氷河の薄明かりが川面に映える様子は、何度見ても新鮮です。パタゴニアの変わりやすい天候は、突如現れた強風と雹に私たちを試し、すぐに再び晴天が顔を出しました。
シェルターと地図の不確かさ
バルマセダの隠者が作った小さな小屋で休息し、二つの異なる地図を照らし合わせながら、狭い峡谷を抜けるルートを探しました。氷床が再び姿を現し、暗雲が迫る中、私たちは雪と風の中を懸命に進みました。
凍えるような水と凍結した乾スーツに手がしびれ、顔は赤く燃えるようでしたが、苦難の先に見える光景への期待が足を止めさせませんでした。
ラゴ・ゲイケへの到達
川の狭窄部を抜け、氷山に囲まれた湖面に辿り着くと、金色の光が氷の青に反射し、まるで別世界に足を踏み入れたかのようでした。遠くのバルマセダ山が雲間から姿を現し、雪のカーテンが金色に輝きます。
氷山の間を跳びながら喜びを分かち合い、近くのモレーンに簡易キャンプを設営。ベーコンとマテを炊き、暗くなる湖面を眺めながら翌日の計画を練りました。
氷河への接近と帰路
翌朝、完璧な氷の通路が現れ、氷河までのパドリングが鏡のように静かに。氷河の壁は六階建ての氷の塔のようで、手を伸ばすと千年の氷河が持つ圧倒的な力を感じました。危険を悟りつつ、数分だけ氷上を滑走し、再び安全な岩場へと戻ります。
帰路では、バルマセダ山の雲のない頂が遠くに見え、太陽の光が氷河の裂け目を照らしました。最後にプエルト・トロに到着し、他のガイドやパドラーとワインを酌み交わし、狐がテントを覗く様子を眺めながら、冒険の余韻に浸りました。
この旅は、パタゴニアの壮大さと、伝説の地を実際に足で踏んだ感動を私に与えてくれました。




