アスファルトが敷かれる前の中国:秘道を求めて
はじめに
「友人よ、中国ではバイクパッキングはできない」
「なぜだ?」
「土がないからだ」
この言葉を胸に、私は雲南省の山々へと向かった。広大な内陸部、北京からは遠くビルマに近い場所で、道路は次々に舗装されていく。衛星画像で昨年まだ土道だった場所は、今やコンクリートに変わっていることが多い。
中国は世界最大の建設現場と言われる。雲南省の省都昆明に飛び立つと、郊外はクレーンが立ち並び、半完成の高層ビルがまるで化石樹のようにそびえている。ユネスコ世界遺産のシューハ(Shuhe)を出発し、玉龍雪山へ向かう北道は、排水管や重機が並ぶ光景が続く。総延長4.2百万キロメートルを超える道路網は、地球上で最も広大だ。
それでも、中国は未踏の広大な自然が残る自転車旅行者にとって魅力的な場所だ。観光客がほとんどいない秘道「シークレット・ロード」への好奇心が、私を駆り立てた。
旅の出発
シーハ(Shuhe)を出て北へ向かい、虎跳峡の奥にある小さな村・大句(Daju)へと辿り着く。そこでは、冬の残雪に覆われた暗く湿った客室で眠り、共同トイレは水道もなく、床には排泄物がコンクリートスラブに付着していた。中国の急速な都市開発は、地方の生活環境改善にはまだ追いついていない。



翌朝、錆びたフェリーバーで泥の金砂河(Jinsha River)を渡り、緑のテラス農園が点在する山麓へと進む。ここでも、昨年は衛星画像で土道だった道が、今は滑らかなコンクリートに変わっている。
数日間、風や日焼け、塩分の付着した服をまといながら走り続けた。高速道路は車で埋め尽くされ、路肩には食べ残しの包装や缶が散乱している。雲南省の観光都市・シャングリラ(Shangri‑La)で二泊し、チベット風古城が急速に再建されている様子を目の当たりにした。
シークレット・ロードへの分岐
シャングリラから北へ20km、目立たないカーブで東へ向かう未舗装の土道に入った。そこが「シークレット・ロード」だった。
道は次第に荒れ、標高3,800mを超える高地へと上がる。途中、重機が轟く音とともに大規模な土木工事が行われている現場に遭遇した。4,000m地点で建設キャンプが広がり、ヘルメットをかぶった作業員が行き交う。近くの小さな売店の店主は私のテント設置の許可を怒鳴りながら拒否し、私は遠くへと逃げるしかなかった。
結局、標高4,200mの平坦な場所でテントを張り、インスタントラーメンで夕食をとった。酸素が薄くなる中での睡眠は苦しかったが、朝になると頭痛は消え、光に照らされた霜が全てを銀色に染めていた。



高山と岩盤の挑戦
標高4,600mの峠を越えると、チベットの祈願旗が風に揺れ、1,000mに及ぶ岩場の急降下が広がる。Muru CyclesのMungoは29+サイズの太いタイヤで、岩や溝、融雪水の流れをものともせずに進む。
しかし、未舗装の建設トラックは巨大な穴や岩が点在し、5cmほどの粉状の土が足元を覆う。5つ目の行き止まりで、RONG WEI社のブルドーザー列に衝突し、転倒したものの無事に体と自転車は持ち直した。
やがて、狭い峡谷の底に新たに敷かれたアスファルト路面が現れ、落石や土砂ネットが残されたまま。村を通り過ぎ、鶏やヤギが路面を走り回る光景を眺めながら、次のキャンプ地を探した。
最後の夜と朝
薄明かりの中、崩れかけた石壁の裏にある簡易テントで眠り、月明かりの下で白酒を一口飲み、川で体を洗い流した。夜明けとともに、ブルドーザーが再び土を掘り起こし、道路は再び舗装されようとしていた。
中国は、どこにも止まらない建設の波が流れる。しかし、タールが敷かれる前の荒々しい大自然は、今でも自転車でしか味わえない貴重な体験を提供してくれる。




