ラグナロクの炎を越えて
雨の山道を下って
濡れた黒い砂の上に残された足跡を振り返り、私たちが苦労して登った斜面を下りていく。雨が吹きすさび、手で目を覆いながら目的地を思い描く。温かい汗と冷たい雨粒がジャケットにぶつかり合う。アイスランド高原を二日間歩き回り、巨大な嵐が迫っていた。遠くの水平線に小さな木造小屋が見え、黄色い苔むした丘が霧の中に消えていく。
モニカは赤いゴアテックスのジャケットで、足元の見えにくい道を探りながら先へ進んだ。革のブーツは何年もの遠征で擦り減っていたが、確かなリズムで谷底へと続く道を刻んでいた。振り返ると、彼女は小さく力強い笑顔で『もうすぐだ、行こう!』と叫んだ。
谷間に響くのは足音と息遣い、そして山頂を吹き抜ける冷たい風だけだった。
小屋は遠くの蜃気楼のように揺らめき、何度距離を測っても歩いていないように思えた。やがて、雨が激しくなる中で古びた木の扉の前にたどり着くと、私たちは濡れながらも笑顔で息をついた。
山小屋でのひととき
背中に重いリュックを置き、冷たい石床に座ってパラフィンストーブに火を灯した。小屋は凍てついていたが、ストーブの熱で徐々に暖かくなった。モニカはお茶用の水を沸かし、ベンチに寄り添って座った。彼女がスマホで電波を探すと、『ここは谷底すぎて届かないね』と答えた。
私たちは次に来る大嵐を予感し、ビタースパイスの効いたティーを二杯飲み干した。ビーニーとダウンジャケットはまだ外す気になれなかった。
ランドマンナウラガルでの出会い
シーズン最後の月、私たちはランドマンナウラガル小屋でガイドと情報センターの仕事をしていた。9月末の高原は旅行者が少なく、最後のバスで帰る予定だったが、ある晩、濡れた手編みのセーターを着たクレミがドアをノックした。
『Focking geggjað!(クソ狂ってる!)』と笑いながら、彼は翌日のトラッス(食料・荷物の配送)へ向かう前に、私たちにもう一つの冒険を提案した。目的地は南部高原にある最も遠い湖、ランギスヨル湖だった。
天候が悪化する前に、私たちは最後のハイキングに挑むことにした。
エルドジャ峡谷へ
遠くの小屋で眠りにつくと、朝の霧が晴れ、目の前に広がったのは火山岩の森だった。巨大な黒い柱が数メートルの高さで立ち並び、苔と緑の植生がまるで古代の森の幹のように覆っていた。
モニカはGPSを取り出したが、沈黙の中で方向感覚を頼りに進むことにした。やがて、私たちはエルドジャ(火の峡谷)へと足を踏み入れた。40kmに及ぶ世界最大の火山峡谷で、カトラ火山とエルドジャ火山の噴火が作り出した溶岩の裂け目だ。
裂け目の奥で、黒い岩壁から噴き出すオーファルフォスの滝を目にした。緑の苔が付いた巨石の間を流れる水は、古代神話の戦いの後に自然が再び息を吹き返す様子を思わせた。
嵐の前の静けさ
数時間後、天候は徐々に落ち着き、遠くの地平線に薄い光が差し込んだが、それは偽りの予兆に過ぎなかった。古い無線で次の小屋にいるクリスティンと連絡を取ろうとしたが、電波は届かない。
私たちはジオデティック研究所の古地図を広げ、コーヒーを飲みながら次の行程を確認した。モニカは窓から差し込む光を見て『天気が変わるかも』と期待したが、私は胸の奥で嵐の迫りを感じていた。
最後の挑戦と救出
雨は激しさを増し、風は吹き荒れた。私たちは黒いテフラ峡谷を登り、氷結した谷底を泥濘の中で進んだ。足は泥に沈み、体はびしょ濡れ。モニカのミトンは水で重くなり、彼女は『大丈夫、もうすぐだ』と呟いた。
ようやく遠くに小屋のシルエットが見え、そこにクリスティンの金髪が光った。彼女は歓喜の声とともに走り寄り、オレンジ警報が発令されたことを告げた。私たちは嵐を乗り越え、無事に次の小屋へ辿り着いた。
旅の余韻
残り三日間はハヴァンギルからアルフタヴァトン湖へ、ラウガヴェグルトレイルの最終区間を通り、スロースモルクへと向かった。天候は穏やかになり、夕焼けと共にアイスランドの大自然を満喫した。火山の荒野で経験したドラマティックな瞬間は、今でも鮮明に心に残っている。
この物語は Sidetracked Volume 21 に初掲載された。




