北極圏の息吹 — スピードフライングと登山の融合冒険
序章:クライミングからの転機
半年ほど前まではクライミング一筋で、トレーニングとリサーチに明け暮れる日々を送っていた。だが過度のトレーニングで右手の腱を深刻に損傷し、数か月の回復が必要になると知った瞬間、私は「クライミングができない今、何ができるか?」という新たな問いに直面した。失われた時間への不安は、やがて自由への期待へと変わり、スキーで発射できるスピードウィング(Speedwing)という、登山と相性の良いスポーツに目を向けることになる。
計画と装備
兄のニアルに同じくスピードフライングを始めてもらい、アルピニズムとスピードフライングを組み合わせた遠征を企画した。クランポンとアイスアックスでの登攀は怪我の影響を受けず、スキーでのウィング発射は足での離陸より安全だ。Speedwing本体はわずか2.5kgで、登山用バックパックの底部にすっきり収納できる。
目的地の選定
人里離れた、事前にガイドブックが存在しない場所を求め、数週間のリサーチの結果、グリーンランド東部山脈の秘境な谷を選んだ。詳細な地図はなく、衛星画像でのみ急峻な山々と氷河が確認できた。
グリーンランドへの旅路
4月初め、私たちは極寒で風の強いグリーンランドへ飛び立った。空港の壁に掛かっていた巨大なホッキョクグマの毛皮に案内係が説明する。「観光客を襲ったクマが射殺された」――グリーンランドらしい歓迎だった。
雪上車で人口約230人のクルスック村へ向かい、ハリボーを補給し、スレッジを整備した。翌朝、海氷が湾に流れ込み船が出航できず、再び雪上車で沿岸を走り、凍結した海氷上で隣村の船頭と合流。エンジンの「プツプツ」という音だけが響く静寂の中、凍ったフィヨルドの端で船は止まり、スキーとスレッジを降ろした。
ベースキャンプと訓練飛行
フィヨルドから半日ほどスキーで上がった地点にベースキャンプを設営。そこはモンブラン峰群に似た壮大な山岳地帯で、完全に人の手が入っていない孤高の場所だった。
翌日、青緑色に輝く氷河の斜面に発射台を作り、スピードウィングでの初飛行を実施。滑らかな斜面から連続で離陸し、崩れたセラクやクレバスの上を低空で滑走し、着地後はスキーで数分滑走してキャンプまで戻った。


氷壁クライミング:The Ephemeral Avalanche
訓練飛行の後、氷壁登攀に挑むべくキャンプ近くの巨大な氷の滝を発見。-15℃の凍える朝、5本のアイススクリューとアバラコフスレッドだけで挑んだ結果、全長3ピッチのGrade IV氷壁を単独で登り切った。これを「The Ephemeral Avalanche(儚き雪崩)」と名付けた。
頂上からの飛翔
氷壁登攀の翌夜、キャンプのテントから眺めた山々の中で、最も魅力的な未踏峰を見つけた。そこに設置した氷河の斜面から、再びスピードウィングで離陸。北極圏の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、カウントダウンの声とともに「2…1…GO!」と未知へと飛び立った。
この冒険は現在、Kendal Mountain Festivalの登山プログラムで上映中。詳細は mountainfest.co.uk をご覧ください。




